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「そうじゃなくて?」
真央の表情を窺うように首を傾ける男の仕草が新鮮に感じた。長身の真央にとって目線が上の男子と話す機会などほとんど無かったからだ。
「あの・・上村さん、でしたよね」
付き合って欲しいと言われた時に苗字だけは聞いていた。
「ん、ああ・・名前覚えていてくれたんだ。君は真央ちゃん、だよね、さっきそう呼ばれてたよね」
「はい・・でも、真央ちゃんなんてそんなかわいいものじゃ」
視線を逸らして俯くと自分の姿が移った。Tシャツから伸びた手は日焼けして真っ黒で、うっすら筋肉がついている二の腕が急に恥ずかしくなった。
「あの・・私、高校に入ってからずっとボートに夢中で、男の子と付き合ったこと無いから、こういう時何て言ったらいいのかわからなくて・・」
「そ、そうか・・・じゃあ俺がその相手じゃどう? こうして部活の後二人で話したりしたいんだけど」
「でも・・私、高校生ですよ? 大学生から見たら子供ですよ」
拗ねたようなまるで子供のような真央の口ぶりに上村は堪らず噴出した。
「子供には見えないって・・」
「いいです。女の子らしくないのは自分でよくわかってますから」
「え・・あ、ちょっと待って」
クルリと背を向けて一歩を踏み出そうとした真央の腕を上村の大きな手ががっしりと?んだ。
「うわ、細っ。よくこんな腕でシングルやってるね」
真央は一瞬何の事を言われているのかわからず?まれた腕をじっと見た。
「や、やだ・・・恥ずかしいからそこ触らないで」
「恥ずかしい? どうして?」
「だって固いでしょ腕。クラスの男子にもよくそれでからかわれるもの」
嫌と身体を捩ると上村は素直にパッと手を離した。そして眉をしかめて自分の手を見つめている。
「ボートやってる男と比べたら全然。あんまり柔らかいんでむしろびっくり」
言いながら上村は自分のTシャツの袖を捲くり上げて真央の眼前に突き出した。
「うわ、太・・・丸太みたい・・」
そうっと手を近づけながらちらっと上村の方を窺うとどうぞという表情だったので、真央はそろそろと触れてみる。
「固いですね。すごい・・・」
脂肪が少しも感じられず、筋肉質と思っていた自分の腕が恥ずかしくなるほど鍛えられた腕だった。
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