第1章

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植物状態になった聡太は日に日に小さく痩せ細っていた。 時折看護婦さんが御世話にやってくるが、聡太が反応することはなかった。 元々無口な聡太は誰かに「有り難う」というようなタイプではないが、これだけ人に迷惑かけたのだから起きたら必ず礼を言わせないと納得いかなかった。 しかし、一年もたって目を冷ますなんて医者でない私にも分かるが、奇跡を通り越してあり得ない状態だった。 刻々と脳死の判断が迫られていた。 お弁当を食べ終えた私は暫く聡太の手をマッサージしていた。 聡太の手は痩せ細り、船に乗っていた頃のような力強さはなかった。 だけど温もりはあり、確かに生きてはいた。 そんな時、病室の扉が開き聡太のお母さんが先生と一緒に入ってきた。 その後ろには何故か私のお父さんもいた。 「友季子ちゃん、来てたの…」 「こんにちわ。どうしたんですか?お父さんまで…」 先生は聡太の腕を取り脈拍を計った。 「いいんですか?」 「はい。これ以上は・・・」 先生とお母さんの会話の意味が私には分からなかった。 「何をするんですか?」 お父さんが私の肩を抱いた。 「何?触らないでよ。聡太に何かするんですか?」 私の肩を掴むお父さんの力が少しずつ強くなっていた。 「もういいの。友季子ちゃん有り難うね。この子も幸せだったと…」 「何言ってるんですか?何がいいんですか?聡太は生きてます。ほら、手があたたかいんですから!私、まだ聡太に謝ってもらってないんですよ!」 「友季子!いい加減にしなさい。」 「お父さんに何が分かるの?聡太を助けられなかったのはお父さんのせいじゃない!何が漁長よ!何も役に立たないくせに!」 もう私は涙でなにも見えてなかった。 「・・・友季子ちゃん!もう、止めて、有り難う。これ以上はもう無理なの。」 お母さんがお金を必死に工面しているのはよく知っていた。 「でも・・・聡太は・・・」 段々と何も言えなくなってしまった。
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