第1章

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今日も市場は朝から変わらずの盛況振りだ。 穏やかな潮風に遠く汽笛を鳴らしながら大型客船が入港してくる。 防波堤で羽休めをしていたカモメの群れは一目散に飛び立った。 青く澄み渡った空に今日もカモメの鳴き声が響き渡る。 あとになってお父さんから聞かされたが、無線を鳴らし続けてようやく聡太が出たとき、聡太は興奮した様子で「俺は一人前になった」と言っていたらしく、そのまま嵐が近付いている事を伝え、直ぐに港に戻るように言ったが、釣った魚が大きすぎて船に上げることが出来ないと言っていた。 それほど大きな魚を船尾にくくるとスピードを出せないので魚を諦めるように言ったが「これで友季子に謝るんだ」の一点張りだった。 そのまま無線は切れてしまい、聡太の身に事故が起きた。 今では私に後悔はない。 謝ろうとしていた聡太の気持ちがたまらなく私は嬉しかった。 もう一度新しい一歩を踏み出すにはその気持ちだけで十分だった。 「友季子」 振り替えると聡太が笑顔で両手を広げて私を迎えていた。 群れからはぐれたカモメはパートナーを見つけたのか波間に漂う一羽に寄り添うように体を寄せた…
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