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──── 一年後
私は朝が弱い、市場の朝が早いのは当たり前なのに、一向に馴れる様子は無かった。
仕訳の仕事も腰に悪く、力仕事は私に不向きなのは知っていた。
私がこの仕事を始めたのは聡太と一緒に仕事がしたかったからだ。
幼馴染みの聡太は無口だが、一人前の漁師になろうと必死な姿が男らしく、時折見せる優しさが大好きだった。
中学の頃海で父親を無くした悲しみの中にいる聡太に私は最後まで付き添っていた。
その頃からだろうか、私の中で聡太の存在が大きくなったのは・・・
「友季子ちゃん、今日も行くのかい?」
隣で同じ仕訳作業をしている山田さんは私に仕事を教えてくれた師匠でもあった。
「はい。仕事終わったらそのまま向かいます」
「じゃあ、これ持っていきな」
そう言って渡してくれたのは網に入ったミカンだった。
「喜ぶと思います。」
仕事を終えた私は自転車にまたがり港の裏山にある病院へ向かった。
病院に通い出して半年が経っていた。
半年間いつも同じ時間に病院へ行くので、ナースステーションの皆が顔見知りだった。
私が同じ時間に病院へ行くのは遅めの昼御飯を一緒に食べるためだ。
・・・聡太と一緒に。
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