舟にたゆたう恋慕

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彼女がまだ生きていた頃。 まだ、近代的な乗り物は何一つなく、旅をするなら、徒歩、馬、帆船といった時代であった。 地方はそれぞれの領主が統治しており、小さな戦があちこちで起こり、勢力が絶え間なく移り変わってゆく。 昨日当たり前に存在していた国が、明日には無くなってしまう。そんなことなど、珍しくはなかった。 彼女は、消え去った国に産まれた姫君。 そろそろ、他国に嫁入りをして、国と国との関係を強化し、国力を高めてゆく礎となる予定であった。 しかし、その話が出た頃。彼女の故郷はその存在を消してしまった。 隣国との戦に負けてしまったのである。 彼女は捕虜として、隣国に連れていかれ、そのまま、当時隣国を治めていた男の側室として生きることを余儀なくされたのだった。 しかし、それが不幸だったわけではない。 その男は、割りと自分とも年が近く、優しい男であった。 二人で会うときには、正妻同様に扱ってくれ、使用人にも、彼女を主として仕えさせていた。
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