第1章

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予定を何度も変更させた詫びだ。 ガクガクと恐ろしいほど震えるソコから引き抜くと同時に もうどれだけ吹き飛ばしたかしれない飛沫が ビシャリと漏れ出た。 ヌルリと線を引く半透明の粘りと ポタポタと滑り落ちる滴が、ピンク色のポリウレタンを テカテカと光らせた。 それと同時に断末魔の叫びにも似た音を吐き 下半身だけが日常起こり得ない蠢きを見せびらかしながら倒れ込んでいるそこへ、ドサリ、と投げたのは 三枝の大好きなアイテムだ。 「今日は特別だ」 軽く声に出して笑ってから、すぐ傍らの椅子に深く腰を下ろし煙草を手に取った。 背中を丸くして、踞(ウズクマ)り まだ残る快感を身体にもて余し、薄く、薄く瞼を上げた三枝が 「ヒ」と小さく音を立てた。 音、と言うよりは空気を吸い込んだだけかもしれない。 恐る恐るという感じで伸ばされた手。 綺麗に整えられて、嫌みのないカラーの乗った爪先がそれを引っ掻いた。 言わずとも、どうすればいいかなんて 三枝には三度の食事よりも承知。 これは、彼女への詫び、というよりは ご褒美だろう。 よく釣った魚には餌はやらない、と言うがあれは間違っている。 煙草をストレス発散に吸うという理論くらい間違っている。 口に咥えたフィルターが少し湿り気を帯びてきて 「早くしろよ」 深く吸い込みながら、火を点けた。 まだ燻(イブ)されてはいない浅い煙が肺に流れ込んでくる。 深いところまで行き渡らせてから吐き出した時 ちょうど三枝が大好物をぎゅ、と握ったところだった。
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