第5章

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悶え苦しむ女を見て いっ時、征服したような気になることで 恍惚が増す。 きっと、お前が今 この印をハッキリと滲ませているのは その相手からの挑戦なんだろうな。 いや、ひょっとすると、ナオ自身かもな。 心地良さそうな寝息を小さく吐き出しながら オレに背を向けて 今までよりもずっと、ハッキリした擦過の痕を見せつける尚子の頭をフワリ、と撫でた。 家庭が円満なのは お互いが好きな事をする時間があるからか。 そこに 干渉という妨害をすることがないからか。 尚子を縛る人物に興味があった。 どういうヤツに甚振られているんだろうか、と。 流行りの寝取られ、というやつか? 腹の底が笑いで揺れる。 偶然というのは重なれば重なるほど 面白い結果を生み出すものだ。 7月の終わり、やっと梅雨が明けたとニュースで宣言が出された日だった。 仕事中に掛かってきた電話は尚子だった。 卓球仲間と飲みに行くことになった、と 連絡が入り 勿論、ダメだ、と言う理由もなく、快く送り出す。 たまたま通りかかったのは 夜も更けてきた頃。 車の中から見たその景色に、ああ、そういうことか、と頷いた。 尚子が楽しそうに歩く横には 明らかに卓球仲間ではない男がいたからだ。 ふうん、そうか。 その男の横顔と 尚子の綻んだ顔を同じフレームに収めたオレは 特になんという事もなく車をスタートさせる。 人生には山も谷も、崖も落とし穴も全てが必要不可欠な要素だ。 さて、これはどこにあたるんだろうか、と 考えながら普遍の流れに身を任せるのも一興だ、と唇を緩ませた。
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