第6章

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一度モヤモヤし出すとそれが加速するのはしかたがない。 自分をこんなに困らせているのは何なのか ずっと晴れない鬱憤に気付いていた。 だけどそれを認めてしまえば…… 例えば認めてしまってどうなるんだ。 適当に湯を流しただけで風呂場から立ち去り 向かったキッチンでアルコールを流し込む。 キリリ、と冷えたビールが味気なく喉を駆け下りていく。 自分がいなくても この家はちゃんと回っている。 冷えたビールがあることも然り。 整えられた食器 磨かれたシンク いつもと変わらない景色がそこにあった。 テーブルに置いた缶ビールが、異物に思える程だ。 何不自由なく暮らしていて 気ままに生きている癖に 心の乱れさえ直せない。 「オレってこんな情けない男だったのか」 呟いて そこに異物を残したまま寝室へと向かった。 緩い寝息が聞こえてくる。 いいご身分だな、とイヤミの一つでも言いたくなるな。 だけど、寝ていてもらって有難い。 尚子を抱く気にはならなかった。 もし、 求められたらどうなるだろう。 応えてやれるかは定かではない。 いや、もうそれはないかもしれない。 賢い女だ。 オレが他所でナニカをシているなんて きっと分かっているだろう。 暗闇と同じくらい黒い髪に、やんわりとフットライトの小さな灯りが煌めいた。 銀の輪っかではなかったが、それに既視を感じるのは馬鹿さ加減の露呈。 「なんでだろうな」 小さな疑問は解決することはない。 そして 身近で起こっている小さな綻びも そのままにしておいた自身のエゴにいつかきっと 後悔する日が来るのかもしれない。
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