8128人が本棚に入れています
本棚に追加
吹き出しそうになった。
どうしても、不審者だからだ。
誰がって?
肩を竦めた姿はまるで怒られた猫が首の後ろを掴まれてるようだ。
さらに大きな黒い目が
“見ちゃいけない、見ちゃいけない”と、でも言うようにこっちを見たいのに、見られないでいる。
「ベルト」
わざと自分のをビーっと伸ばして
ガチャリと音をたてる。
スタートの合図が静かに車を震えさせた。
「なにか予定あった?」
今更だが一応、聞いてみることにした。
後々、恐ろしいくらいに文句を言われても困るからな?
「あったんならそこまで送」「ございません!」
力強い返事、大いにけっこう。
いつでも動ける準備は万端、後は
斉藤、お前だけなんだけど?
チラ、とバックミラーを確認してから
ついでに隣の猫に視線を移した。
夏はあんなに大胆だったのになんだ
何故そんなにビビるようなことがある?
「きゃぁっ」
自分のベルトを外して
身体を彼女の方まで乗り出し左手をベルトに伸ばして、さっきと同じような音を出しながら引っ張った。
「ベルト、って
言わなかった?」
すぐ近くで覗き込むと明らかな挙動不審を訴える斉藤。
やっぱり視線を合わせるのを拒否するように
黒い瞳が右往左往する。
腹の下から擽ったいような笑いが沸いてきて、なんだか無性に、弄りたくなった。
ああ、これが
可愛い、ということか。
最初のコメントを投稿しよう!