第6章

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デカイ眼だな。 音には出さずに 口だけで形取る。 「え?」 小さく動く瞳に現れるのは さっきと同じく 動揺。 と 驚愕。 こんなにも、アグレッシブに攻めるタイプだったのか、と 自分のことなのに新しい発見をしたみたいだ。 ちょっと個室に入っただけで こうも大胆になれるだなんて人間なんて簡単な生き物だ。 個室とはいっても、ガラス張りには変わらない。 だけど周りはどんどん闇を帯びて その重さで音も鎮まっていくようだった。 ピチャリ、と口の中を掬うノイズがやけに大きく響いたのは お互いの耳の近くで立てた音が 骨を伝わったからだ。 まだ何が起こったのか理解し難いのは斉藤。 身体は微動だにしない癖に 眼だけは小さな揺れを繰り返し 胸を押し返そうと少しだけ抵抗を見せる掌がフルフルと震えていた。 自分の吐いた息にコーヒーの苦さが混じっていた。 斉藤も十分に感じているはずだ。 やっとのことで唇を離して囁いた。 「上手いだろ、本日のコーヒー」 「え、や、い、いや、」 ことの展開を必死で噛み砕こうと オレの顔を何度も何度も左右に往復する仕種が 本当に ほんとうに 「可愛くて堪らん」 やっと、思い描いて焦がれていた頭の上の銀色の輪に掌を滑らせた。
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