第1章

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部屋を出た所で明るさの違いに目を細めた。 それに順応しようとした瞳孔が四苦八苦している。 「お帰りですか?」 物憂げに揺れた瞳を見逃さない。 「あぁ、今日は少し疲れた、早めに休む事にする」 机の上に広がる何枚もの色とりどりの紙をテキパキとファイルにしまい、後ろに続こうとした三枝(サエグサ)に一言、 「そのまま続けて、一人で大丈夫だ」 音だけで制して、視線を投げる事もせずに前を通りすぎた。 三枝は優秀で気の効く秘書だ。 黒のタイトなスーツは彼女によく似合っている。 なんといっても、保険をかけても良さそうな滑らかで、長い脚が、ピチリと沿ったスカートから覗くのは本当に堪らない。 こっちの運営を任せてよかったな、と心底思う。 「オーナー、明日は午後から新規の面接がはいっています」 背中越しに掛けられた声に手を振って応える。 三枝の声はしっとりとしたメゾソプラノ。 決して変調する事がない。 どんな時も…… ただ、そんな彼女が違う音を出すのはきまってセックスの時だけだ。 今日はその音を聞くはずだったんだがちょっと予定変更だ。 それについても、深くは追ってこない三枝は 本当にできた秘書だな。 男の我が儘に振り回される女の心情なんて 考えたこともなかった。 そもそも混み入った関係で付き合っている訳ではない。 予定が合わなくなる事だってまま、ある。 「お疲れ様でした、お気をつけて」 振り返らずとも三枝は深く頭を下げているに違いなかった。 彼女はそういう女、なんだ。
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