第1章

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マンションの駐車場は野晒し。 こればっかりは仕方がない。 まだ、残暑がそこかしこに残っている9月。 車の中は当然蒸し風呂状態で アルミの日除けをしていても効果がない。 「暑いな」 ポソリと呟いた小さな音は、ムワリと立ち上った熱気に紛れて星のない空へと消えていく。 星が無いんじゃなかったな。 見えないだけだ。 いくら裏通りにあるとはいえ、ここは東京の繁華街。 明るさは一入。 全部の灯りが消える事はまずないだろう。だからここから星を望む事は難しい。 車の中に置き去りにされていた100円ライターを見つけて少しだけ気持ちが軽くなった。 肺のなかを早く煙で満たしたい。 そんな衝動に駆られた。 煙草なんてのは害にしかならない。分かりきっている。 気持ちを落ち着かせる?オレにしたらそれは言い訳だ。 だけど、有害でどうしようもないそれを燻らせながら何も考えずに深呼吸を繰り返したい、ただ、それだけだった。 ライターの炎に咥えた煙草の先を近付け、そして軽く吸い込むと、チリリと音を立てて紙と葉っぱが焼ける。 この一呼吸目が堪らない。 なんでも一番煎じがウマイだろ? 一日我慢したんだ、余計にウマイ。 満足げな微笑(ワラ)いが出たのが自分でもよく分かる。
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