第1章

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消しゴム、使いすぎ。 髪の毛、邪魔すぎ。 ノート、近すぎ。 しかも、根本的に間違っていて それじゃあ、山がもっとヤマになるぞ。 思ってはいても、口には出さないが。 右隣の、女子高生らしき彼女はブツブツと呟きながら ペンよりも消しゴムを握る時間の方が長かった。 数学はなぜ苦手意識を強く持たれるんだろうか。 きっと、隣の彼女のように根っから分からないからだろう。 参考書を開いているのに全く役に立つ気配すらない。 それじゃダメだ。 「ダメだぁ」 口には出さない呟きと 口に出された呟きとが、シンクロした。 一日働ききって疲れているせいもあったのか それとも、隣の彼女の呟きがどうにも絶望的すぎた為か 吹き出してしまった。 ふっ、と出たものは ふふふふふふ、と続く。 なんだ、やけに笑いのツボを突かれたもんだな…… まいった。 堪えようとすればするほど可笑しくなってしまった。 挙げ句、隣の彼女は参考書をパタリと閉じて ペンをケースにしまい出す。 こりゃ、気分を害したな、とは思いながらも 笑いは続く。 左手にはめられていたゴムが 彼女の手によって、スルスルと髪に巻かれていく。 深紅のゴムは、胸元のリボンと揃いだった。 一頻り楽しませてもらった後、咳払いをしてから、やっと詫びを入れる。 「失礼」 微笑ましかった。 全くの見ず知らずの女子高生と思わしき彼女の仕種が。 山のような消しゴムかす。 閉じられた参考書。 白いシャツ。 揺れるリボン。 そして、やっと彼女の顔に辿り着いた。
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