第3章

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後藤から連絡があったのはその日の夕方だった。 "そろそろ本格的に可愛らしい子を見つけてくださいよ" 受話器の向こうで後藤の声と共に聞こえてきたのは 女のアノ声だ。 こいつは今サロンにいる筈だから当たり前なんだが。 「おい、こんな時に掛けてくるな」 苦々しく言うと、あはは、と軽く笑い捨てる。 "今派手に忙しくてプライベートな時間がないんです、こんな時しか" IT産業もどんどん革新していかなければ存続が危ぶまれるからな いつでも忙しいのは当たり前なんだろうけど。 "今日はお時間ありますか?" 「……何時くらい?」 "19時過ぎとかー、……20時過ぎとか……?" 「20時だな」 "どこか落ち着ける場所でお願いします" 「あー、じゃあオレの癒し処でいいか」 "いいですね" そう言った後藤の後ろで、悲鳴のような声がした。 ……勘弁してくれ。 「もうかけてくるなよ」 半ば呆れ、半ば怒りぎみに通話を終了させて こめかみを軽く揉む。 サロンの経営は驚くほど順調だった。 今年度は買い上げられたキャストも多かった。 買い上げ=身請け、のようなものだ。 遊びで抱くにはちょうど後腐れないキャストが揃っている。 要は金を掛けずに無茶遊びが出来るんだ。 愛人や妾を囲うよりも楽に振る舞えるし キャストは最初の契約で自分の身に起きた事は自分自身で処理をするという内容でサインをしている。 しかも風営法に届け出をしている店舗だ。 本妻にややこしく言われる事もないだろう。 いざとなれば、"店遊び"で片付けられる。
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