第1章

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「あぁ、申し訳ない 不躾だったお詫びです」 真面目に取り組んでいたのに笑った事は申し訳なかった。 ひょっとすると、余計にやる気を刮(コソ)げてしまったかもしれない。 間違った箇所に波線を打ち 奮闘中のノートに訂正箇所の考え方をサラサラと 書き記した。 これは、お節介どころの話じゃなくて、ただの怪しい人だ。 「じゃあ、頑張って」 そういって、まだ口をつけてから間もないグアテマラと紙袋を持ち席を立った。 この場から早々に居なくなる方が、彼女にとってもいいと判断したからだ。 とにかく今日という日は、日常よりも少しだけ変化に溢れていて それがとてつもなく新鮮なスパイスになった。 そういえば、こんなに可笑しな気持ちになったのは何時ぶりだっただろうかと思い返して なかなかその答えに辿り着かない自分に また、滲み出してくる、アジな微笑(ワラ)い。 車に戻り、煙草を咥えた。 まだ火を点けていないその、葉っぱの香りを少しだけ楽しんで、100円ライターを翳す。 衝動が湧いた。 フツフツと。 助手席に無造作に置いた紙袋がその上で転がる。 「……予定、変更だ」 深く吸い込んだ、有害な煙をさらに有害なモノに変えて吐き出すと同時に、自分の欲の塊を片言に乗せて 元来た道をとって返す。 こんな事はよくあることだ。 自分の都合のままに、誰かを振り回す事なんて 本当に、よく起こりうる出来事……。 アクセルが軽い。 調子がいいにも程がある。 スマホに滑らせた指でコールした相手が応答する前に自分勝手なセリフを、甘く、柔らかに囁く。 「今から戻る」 相手の反応なんてそのたった一瞬の間で理解できた。 返事も聞かずに通話を終了させるのも得意とするところだ。 白く、銀色に煌めく車体は夜の暗さにも映え 街の明るさをも取り込む。 とても、軽快だった。 車も、自分自身も。
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