第3章

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どうしたんだ、と声をかけるのを止めたのは 必死に縋り付いて、形振りを気にせずに泣きじゃくるこの子に何かあってこうなっているのは一目瞭然だからだ。 きっと 親には言えないような ひょっとしたら、あの相棒にさえ言えないような事が起こったのかもしれない。 多少ざわつく店内。奥の席へ顔を向けると、周りとは明らかに違う意味ありげな含み笑いを携えた男が"どうぞ"と促した。 斉藤 遥は普段は自分の感情をこんなに大っぴらに現すようなタイプではない。 「お客様、どうかなさいましたか?」 心配と牽制を含んだ店員の声が後ろからかかったのを期に斉藤 遥の肩に手を置いた。 「いえ、申し訳ない」 そう言いながら、背中をゆっくりと擦る。 好奇の目が鬱陶しいのは仕方がない。みんなこんな突拍子もない刺激が楽しいからに決まっていた。 特に、負の色が濃ければ濃いほど興味深い筈。 「斉藤、荷物はあるか?」 彼女だけに聞こえるように少しだけ耳元近くで囁いた。 「……外に車がある、そこまで行こうか」 やっと顔をあげ、目と目が絡む。 最近の学生は、自分の外見ばっかりを気にする輩が多いのにな。 「泣き過ぎ」 涙と鼻水とでぐちゃぐちゃにまみれたそこに ハンカチをそっと当ててやる。 眉間に一層力が加わり、じわりじわりと溢れる涙を見て 「ほら、荷物はどこだ」 早くここから連れ出してやろうと彼女の肩を抱いた。 少女と中年男性。 こりゃどう見たって援交だな。 頭の中で一昔前に大流行した交際のメソッドを浮かべて思わず唇を緩ませる。 やっと店の外に出た時には斉藤 遥は少しだけ落ち着きを見せていて、ポソリ"ごめんな、さい"と、呟いた。
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