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後部座席に促してそこに座った途端に
また、思い出したように声をあげた斉藤 遥。
ダッシュボードから取り出したボックスティッシュはあれよという間にその嵩を減らす。
しゃくりあげてわぁわあ、と喚くように泣きじゃくるなんて、子供ならよっぽどムシの居どころが悪いか具合が悪いか、というところだろうか。
こんなに興奮しては真相を聞くどころか、落ち着くまでに時間がかかる。
「ちょっと待ってて?」
この言葉すらも聞こえているかは分からないが
駐車場を出たところから直ぐの自販で水を買い
車へ引き返した。
斉藤 遥の横へ腰を下ろす。
急ぐ理由もない、ジックリいこう、と思ったのは彼女の身を案じての事でもあった。
「飲みなさい」
ヒタ、と頬につけたペットボトルにビクっと身体を震わせ、それが何かを確かめるその目は紅に染まっている。
「冷たい物は気持ちを落ち着かせる、飲みなさい」
セーフティーキャップを軽く回して彼女にボトルを握らせた。
そのまま暫く
嗚咽と、時折ゴクリと喉を鳴らす音が何度も何度も響く車内でシートに凭れて時を過ごした。
小さな声は少し掠れていて
「あの、ご、……んなさぃ……」
まだ涙混じりで
「……スッキリしたか?」
「え?」
「泣くだけ泣いて、スッキリしたか?」
泣き声が、啜る音だけに変わった頃
彼女と目は合わさずに、ただ前を向いて尋ねた。
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