第3章

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「これ以上泣いたら、元に戻らなくなるぞ」 キュ、と固く結ばれた目と口。 コクコクと頷くその姿が何故かとても可愛らしかった。 「まあ、明日はさしずめ、怪獣だな。 オバケまではいかないから安心しなさい」 暗い車内でも斉藤の黒髪は何処かからの薄い光も吸い込み、輪を湛えていた。 いつだったか。 ……三枝の口にぶち撒けた欲の速さを思い出した。 オレは確実にこの少女の黒髪に欲情したんだ。 だけどそれは恋愛や面倒くさいモノではなかったと言い切れる。 今、こうしていてもそういった感情は湧いてこないからだ。 ただの、"そこにダしたい"という本能。 雄の塊だ。 性欲の強いのも、時と場合によっては問題だ。 「斉藤には少しリハビリが必要だな いとうくんはそれに付き合ってくれるだろ。 なんなら、私も話くらいは聞いてやれる」 ゴックン、と動いた喉。 嚥下の動作によからぬ想像が重なる。 綺麗な女よりも、馴れた女よりも 一番人気が高いのは、こういう普通のコなんだ。 はぁ、と息を吐き やっと、瞳を開き、斉藤に落ち着いた姿が戻ってきた。 「大丈夫か」 掬った右手を離そうとして、そのスーツの袖口に指がかかった。 引っ掻けたのか、と思って"すまない"、と小さく呟いた瞬間にか細い声が耳に届いた。 「……キス、してくださぃ」 少しだけ時間が止まったのかと思えたのは 自分の思考を上回る言わば想定を超えた事態に発展したからだ。
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