第3章

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「何が言いたいんだ、後藤 余計な詮索は好きじゃない」 「いや、室館さんみたいなカッコいい人が 奥さん一筋なのがまた、カッコいいな、なんて 思っただけですよ!」 やっとひと息ついた所で 八寸が運ばれてきた。 豆腐料理をリーズナブルに振る舞ってくれるここは 酒との愛称も頗るいいものを出してくる。 「揚げ田楽が旨いんだ」 「あー、湯葉なんて久しぶりですよ」 暫くは小腹を満たすことに専念したのか 若いながら食が進む進む。 見ていて気持ちのいい食べっぷりだった。 本題に入る前にかなりのアルコールが後藤の身体の中へ収められた。 「お前、帰りは?」 「あー、今日はタクシーです、大丈夫」 「そうか」 「室館さんは?途中まで一緒に帰りましょうよ」 「いや、遠慮する」 なんでですかー、と言う、口を尖らせた後藤を見て、まだ大卒の頃の本人と未だ何も変わらないな、と懐かしく思い出す。 こいつも色んな挫折と苦労を繰り返してきた。 落ち込んだ姿も、立ち直った勢いも全部見てきたな、と。 「あー、室館さん、お願いがあるんですけど」 「そうだった、それを聞きに来たんだ」 このままだと、話は逸れたままか 聞きはぐれるか、どっちかだと思っていたから ちょうど話題が戻ってきてひと安心だ。 「今のまま、遊ばせてもらっても楽しいんですけどね? なに、あの、オークションとか! あれ、ヤケになっちゃうよね?」 「そうか、それは良かった」 「で、マジでちょっと思った事があったんですけど」 「ああ」 空になった瓶をワインクーラーへ伏せて 新しい瓶を取り出し、タオルでその滴を拭った。
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