第3章

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「酒、足りるかなぁ」 もう3本目の泡だった。 「足りなかったらまた頼めよ」 「そうですよね?」 嬉しそうに顔を綻ばせた後藤を見て、まだまだ可愛らしいな、という印象をどうしても拭えない。 シュ、と溜息が聞こえて またグラスに満たされたのは、ピンク。 「ロゼだったのか」 「けっこう好きなんですよ、赤」 どうぞ、と促されて 替えのグラスに入ったそれを受け取り 後藤を再度見た。 「室館さん、お願いします」 スルリと頭を下げた後藤。 「うん、何」 「昨日の彼女、俺に紹介してください」 ほんとに今年度は驚く事ばっかりで どこをどうしたら50過ぎてこんなに面白可笑しな人生になるんだろうと、グラスの中で弾ける泡を見ながら、考え、確認をする。 「昨日の彼女?」 「はい、室館さんとこの生徒さんだっていう、昨日の彼女です」 そう語った後藤の眼差しは、今日一番の真剣そのものだ。
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