8128人が本棚に入れています
本棚に追加
おまけに聞き間違い、で済ませられないぐらい頭を下げられた。
「昨日、見て、ドハマりだったんですよねー?」
彼女をコイツに?
ス、と襖が開いて料理が運ばれる。
その間じゅうずっと頭の中をグルグルとシミュレーションが駆け巡っていた。
「湯葉の刺身かぁ」
目でも楽しませてくれる盛り付けにすっかり気を良くした後藤はまたこっちを見て
「お願いします、室館さん」
念押しのひと言。
「……お願いされてもなぁ……」
事情が事情なだけに。
どこをどう汲んでやればいいのか、とか
後藤の趣味嗜好だとか
「無下にはしません、誓います!」
無下……どうするつもりなんだ。
「あ、彼女マダ、ですか?」
「……知らないよ、んなこと」
「ですよね?
イヤ、今時の女子高生ですからね、まさか、そんなウマイ話ないですよね?」
まさか、過去の話も、ついこないだの話も
当たり前だが出来る訳がなかった。
だけど、だ。
リハビリにはなるかもしれない。
別に、付き合う付き合わない、ということは考えずにこんな大人もいるんだと……
いや、待てよ。
「……室館さん」
「何だ」
グラスに隠れながらこっちを見る後藤。
「やっぱり、あの子、室館さんのお気に入りかなにかですか」
「お気に入り?」
じぃ、と上目遣いを決めこんで
怪しい目力でこっちを刺す。
「紹介したくなさそうじゃないですか」
「あのなぁ、お前考えてもみろよ?
オレはただの塾の先生なだけなんだぞ?
それを、"後藤くんが君を気に入って"なんて言えるわけないだろうが」
引かれまくるわ、と付け加えてやった。
最初のコメントを投稿しよう!