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有坂皆人くんの憂鬱なる一日 1
有坂兄弟が巻き込まれたとある事件から約二週間後。
皆人の携帯に、めずらしい相手からの着信があった。
「なんだよ兄貴。兄貴から連絡寄こすなんて大雪でも降るんじゃね」
「ちょっと来られないか? 皆人」
皆人の嫌味など、まるで聞こえなかったかのように華麗にスルーして、電話の相手の龍一は淡々とした声で告げる。
「ちょっとって、兄貴、今どこだよ?」
見事なくらいの無視ぶりも、いつものことだと諦めきっている皆人は、イヤダという意思をはっきり表した口調で返事をする。
「どこって、家に決まっているだろう。俺は帰ったと、そう聞かなかったか?」
龍一は涼しげに、何でもないことのように言うが、
「マジかよ! 家って、あのド田舎のだろ。新幹線乗って電車乗ってバス乗って、ようやく着くようなところだぜ。ちょっとって距離かよ」
皆人の最悪の予感は大当たり。
龍一に聞かせるための盛大なため息も、どうやら馬耳東風のようで、
「俺が出向いてもいいんだが」
龍一の様子は余裕たっぷりだ。
「乃亜と理沙にも、久しぶりに挨拶しようか?」
「――」
皆人は声を詰まらせた。
「やっぱり、全部知ってやがる……」
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