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「俺が、美百合を迎えに戻った日、美百合はハウスの中で仕事中だった。
皆人も知っての通り、あの家はかなり辺鄙な場所にある。タクシーで乗り付けても良かったんだが、この際だから周囲の様子を確認しておきたくて、バスを降りてから、けっこう歩いた」
思い出を語る龍一は、ちょっと幸せそうに見えた。
皆人に対しては、無愛想か、思わず翻弄される魅惑の微笑みを浮かべることが多い龍一にしては、それはめずらしい表情。
「ハウスの遮光ネットを揺らすまで、美百合は俺に気がつかなかった。俺に気づくと美百合は、ネット越しに、思い切りぶつかってきたよ」
胸に飛び込んできたと言わず、ぶつかってきたと言う。
おそらく、その通りなのだろう。
「肋骨を折ってたからな。あれは厳しかった」
皆人を庇って、銃で撃たれたときの怪我だ。
ゲッ、こんなところでぶり返されても、
と思わず腰がひける。
「そのままハウスの入り口を回って、ようやく美百合との感動の再会だ。抱きしめて、キスをして……、もっと続けるか?」
いやいい、と皆人は首を振った。
皆人のオトボケの件は、どうやら話の一環としてスルーしてくれたようだ。
そのことに、少々の安堵を覚えつつも、本題はそんなところじゃないと先を促す。
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