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「ハウスには美百合の父親もいたからな。『車の鍵は』と聞いたら、驚いたことに付けっぱなしだと言う」
なるほど。
到着するなり、ちゃんと車があることぐらい、確認済みだったわけだ。
龍一の抜け目のなさに舌を巻く。
「フォードのピックアップトラックなら良かったんだが、軽トラックってやつはシートが固くてな。美百合をあまり長い間、座らせられない。だからこのホテルで我慢した」
「へ?」
話が飛んだような気がして聞き直した。
龍一は首をかしげて皆人を見る。
不思議そうな顔をする皆人に、ここまで言わなくてはならないのかと、龍一は理解したらしく、小さなため息をついて、
「美百合を抱き上げて、車に乗せて、連れてきた。それがどうかしたのか?」
「誘拐じゃねーか!」
4年間も離れ離れだった美百合に、決まった相手はいないのかとか、今でも心変わりはしていないのかとか、そんな積もる話はすべて省略したらしい。
再会からホテルに直行ときた……。
「ちゃんと父親には断ったぞ」
おそらく言い捨てただけだ。
返事も聞かずに連れ去ったのを、普通『断った』とは言わない。
「それにしたって4年間もの間、みゆっちのこと放置プレイだったわけだろ。さすがの兄貴も、みゆっちが待っていてくれることに、不安を感じなかったわけ?
本当に? これっぽっちも?」
皆人の質問にかえってきたのは、龍一の余裕の微笑み。
悔しくなって、つい意地悪く、
「案外、兄貴が知らないだけで、みゆっちもそれなりに楽しくやってたりしてねー」
今回の色ボケシルバーマンみたいにね。
という次の言葉は、かろうじて飲み込んだ。
しかし龍一は、
「仮にそうだったとしても、もう一度出会いなおせば、それで済む話だろ」
浮かべたままの魅惑の微笑み。
「はあ?」
「仮に美百合が心変わりしていたとしても、もう一度、出会って振り向かせれば済むことだ。何度でも俺に惚れさせる自信はあった」
くさすぎるセリフに、思わずテーブルに突っ伏しそうになる。
『この自信満々がまるっきり通用してないから、今のこの現状だろうがよ!』
皆人の心の突っ込みも、龍一相手には通用しない。
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