有坂皆人くんの憂鬱なる一日 4

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「えっと、今回の『誘拐』もおんなじ感じ?」 念のため尋ねてみると、 「誘拐って言うな」 龍一は気に入らなそうに答える。 「傍に近づいてきたから、捕まえて、さらっただけだ」 世間一般では、それを『誘拐』って言うんです。 「で、肝心のみゆっちは、何も文句を言わなかったわけ?」 そんでもって、ここ大事。 過去と現在に少しでも違うところがあれば、そこから突っ込める。 皆人が尋ねると、龍一は、 「ん?」 と首をかしげる。 「ああ。前の時は、洋服が作業着だとか、長靴がなんだとか言ってたな。 今回は、化粧してないとか、髪がボサボサだとか、他愛もないことだ。特別に重要なことじゃない」 いや、女性にしたら、かなり重要なことですけど? 「前は、あまりに長靴を気にするから、トラックを降りるときに脱がせて、抱き上げてロビーに連れて行ったし、 今回は化粧を気にするから、胸に抱いて、誰にも顔を見せなかった」 「……わあ、強引」 他にどんな言葉が出る? 「そうか?」 龍一は、相変わらずの気のない無表情。 この時点で皆人は、女心を龍一に相談しろと言った理沙に、次は完全勝利できる確信をもった。 女心なんて、絶対わかってねーよ、この人。
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