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しかし、それもショックだったろうな、と皆人は思う。
今回、龍一を迎えに行った時にも、美百合は、龍一の身を守ってくれと、皆人に切に願った。
力強く約束してやれなかった皆人に、天を仰ぐように号泣していた美百合を思い出す。
「その時に、もう怪我はしないでと請われたんだが、……約束は、してやれなかった」
「なんでだよ! 兄貴はあん時、仕事を引退してみゆっちの所に行ったんだろ。ちゃんと約束してやれば良かったんじゃん」
「俺は嘘はつかない」
ズバリと言われて、皆人はグッと詰まった。
「仕事のことは、もちろん引退したつもりだったさ。今回の事件にも、お前が迎えに来なければ、係わるつもりなんかなかった」
またもや、皆人を責めるかのような際どいセリフに、ゴクリと息を飲む。
だが龍一は、
「しかし人間が生きていて、一生、怪我をしない保証なんてどこにある? そんな不確かな約束なら、俺は美百合にはできない。出来る限りの、精一杯の努力はするがな」
だから今回は怪我なんかしなかっただろ、と龍一は魅惑的に微笑んだ。
腹に爆弾抱えたり、15階からダイビングしたり、かなりの無茶はやったけどね。
しかし口答えをすると、藪から蛇をつつき出しそうなので、言いたいことは胸の中だけに収めておく。
いつか俺、セリフが溜まりすぎて、爆発するかもしれないしね。
皆人は、口をつぐむ代わりに頭を抱えた。
「兄貴は頭が固てーんだよ」
龍一が口にする言葉には、嘘や誤魔化しがない。
それは、もうずっとそうだ。
それは龍一の魅力のひとつでもあるのだが、
「それで?」
先を促す皆人に、
「しょうがないから、3日かけて、美百合に身体で『俺は大丈夫だ』ってことをわからせてやった」
『そこは誤魔化してくれよ!』
またしても聞きたくない話の展開に、皆人は再び自分の両耳を塞いだ。
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