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有坂皆人くんの憂鬱なる一日 5
出会いから再会時の、龍一と美百合のいきさつはわかった。
とにかく美百合は、龍一から『監禁』されても、龍一に脅えて、締め出してしまうようなマネはしない、という、あてられまくりの話を聞いた割りには、実りのない結末に落ち着いた。
仕方ないので、先を進める。
「んじゃさ、思い切って視点を変えようぜ。何も今回の事件に限ったことじゃねー。みゆっちが兄貴を拒絶するようなショックな事件が、何か他にも有ったんじゃね? 兄貴に心あたりはないのかよ」
皆人の問いかけに、龍一は少し考えるような仕草をする。
そして、
「事件らしい事件といえば、思い当たるのはひとつだけだ」
そして皆人も知らなかった、イチゴ栽培も関係した『催淫剤』に絡む事件の話を聞いた。
それは栽培していたイチゴ畑に、知らないうちに催淫剤を混入されて、怒りまくった龍一が、暴力団組織をひとつ叩き潰したという話だ。
「……派手だね」
「そうか?」
呆れたことに、暴力団をひとつ壊滅に追い込んでおいて、龍一にはまったく自覚がないらしい。
そのニュースは、皆人も仕事場の警視庁のデスクで聞いて知っていた。
警視庁内部では、暴力団同士の抗争が原因だろうと片付けられたが、
一夜にして、地方とはいえ、紛れもない暴力団の、その末端組織に至る人員までが、すべて、まるで神隠しにあったように綺麗に消えてしまうという。
スケールがデカすぎて、ちょっと冗談のような話だ。
例えば、組織の全員をコンクリート詰めにして、海に沈めたのだとしたら、
「海面上昇。南極の氷も解けるんじゃね!?」
と笑い話になったのだが、
この現代のミステリーを、まさか我が兄が仕出かしたことだなんて、夢にも思わなかった。
「美百合に気づかれたとは思えないんだが、薬を飲まされた時の記憶は残っていてな。ひどくショックを受けて。忘れろと言ったんだが、無理だった」
それに加えて、龍一が実行したことを知れば、間違いなく美百合は今頃憤死している。
龍一の言う『気づかれていない』という言葉は本当なのだろう。
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