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皆人のわずかな反応に、するどい龍一は勘付いたようだ。
皆人を見る目が、
「話せ」
と促している。
だがまだ、確信はもてない。
いい加減なことを言って、後で間違っていたと、銃で追いかけ回されるのだけは御免だ。
「その事件の時に仕出かした失敗はないのか? なんかみゆっちを困らせたとか、泣かせたとか」
皆人が、龍一の視線の問いかけの上にかぶせるように聞くと、
「隣に住んでた、美百合と親しくしていた男をひとり、始末した」
皆人はソファーからずり落ちそうになる。
今、メッチャ恐ろしいことを言わなかったか、この人。
「葬式の時に、美百合に泣かれた」
思わずゴクリと唾を飲む。
「始末したって、なんで、また……」
またもや、聞くのも恐ろしい話題だが、やはり聞かずにはいられない。
「うちのハウスにその妙な薬を仕込んだのが、そいつだったからだ」
「……えと、暴力団の構成員だったとか?」
暴力団組員と美百合が、普段から親しく会話していたとは考えられないが、一応、確認。
「いいや、名もないチンピラだ。ヤツらに、いいように使われただけだろう」
「一般人じゃねーか!」
激しく突っ込む。
もう何度目になるだろう。
悪徳警官だった皆人でさえも、一般人には手出しはしなかった。
「現場であいつは俺に銃を向けた。それがすべてだ」
『絶対、違う』
と皆人は心の中で突っ込んだ。
聞いている限り、その男を抗争の現場まで連れて行く意味が見当たらない。
案内役だとか何とか、無理やり理由をくっつけてはいるが、龍一はその暴力団事務所の場所も構成員数も、昔なじみのツテを使って、全部、調査済みだったはずだ。
それを無理やり連れて行った時点で、龍一のその男に対する、並々ならぬ憎悪が見て取れる。
その理由はなんだ?
美百合と普段から親しく会話していた。
それだけ? マジか?
触らぬ神に祟りなしとは言うが、触らぬ龍一に祟りなしではないのか?
今こうやって、龍一の赤裸々な告白を聞いていること自体が、もしかすると自分の寿命を縮めることになるのではないかと、皆人はなんだかそら恐ろしくなってきた。
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