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「そういえば皆人、お前」
なんだか急激に、辺りの気温が下がってきたような気がした。
「美百合に妙なTシャツを着せて、ジャンプさせたらしいな」
――シャキッ、
と、ベレッタのスライドを引く音を聞いたのは空耳か?
こんな街中で、まさかね。ははは……。
「あ、兄貴、俺ちょっと思いついたことがあって」
皆人の言葉に、龍一はピクリと眉をあげる。
「兄貴の過保護というか、その過激な反応。性格だからしょうがないとは思うんだけどさ。みゆっちが脅えちゃった理由って、それが原因ってことは考えられない?」
皆人の言葉に、何か思い当たることがあるのか、龍一はピタリと動きを止める。
やっぱりあるんだ、心当たり。
「ははははは」
皆人は乾いた笑いをもらした。
もう何を聞いても驚かないぞ、と腹を据える。
「美百合はむかつくウサギが好きなんだが」
ああそういえば、ウサゴンが好きだったな、と妙なTシャツを着ていた美百合を思い出す。
今回も龍一は、美百合にウサゴングッズを贈って、美百合の機嫌を一旦は直したと言っていたではないか。
ウサゴンとは、ニコタンズという野球チームに所属しているマスコットキャラクターなのだが、以前から皆人とも、ちょっとした係わりがある。
好きか嫌いかと聞かれたら、やっぱりむかついている方に針は振れるが、それでも、
「射殺し損ねた」
そこまでじゃない。
「あはははは……」
もう渇いた笑いしか出てこない。
お願い、冗談だよね?
全然、少しも、これっぽっちも笑えないから……。
龍一のいつものヘタクソな冗談だと、誰か言って!
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