有坂皆人くんの憂鬱なる一日 5

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『話をもどそう』 と皆人は、龍一の怒りの矛先が自分に向かないように注意しながら、会話を進める。 通常の龍一なら、こんな姑息な手段が通用するわけはないのだが、今の龍一は、美百合の篭城にほとほと困り果てているようだ。 皆人の言葉に中に、少しでもヒントが見えないかと、すがりつくように皆人の誘導に乗ってくる。 「とにかく話を聞く限り、その隣の男の件に関しても、みゆっちには兄貴の仕業だとはばれていない。それは間違いないよな」 龍一はうなずいた。 「じゃあ、それを理由にするには、動機が弱い気がするな。その妙な薬、『催淫剤』って、催淫剤?」 自分で言った言葉に自分で驚いた。 「みゆっち、催淫剤を飲んじゃったの?」 思わずゴクリと唾を飲む。 「想像はするな」 龍一の声がブリザードのように凍えたので、慌てて気を取り直した。 「そ、それじゃね? そん時の記憶が今んなって恥ずかしくなっちゃったとか……」 想像するなと言ったくせに、龍一自身が思い出すように考え込んでいる。 この微妙に空いた時間に、皆人は思わず、妄想の翼をはためかせてしまった。 健全な男で、美百合のあのダイナマイトバストを知っていたなら、どうしょうもないことだ。 第一、目の前の龍一だって、きっと同じようなことを考えているはず。 いやもっと生々しいことを思い出しているに違いない。 龍一は顔色ひとつ変えないが、弟である皆人には、それがわかった。 やがて、 「――ありえるな」 龍一は認めた。 だから、あんた何やったんだよ! もう数えるのも諦めた、何回目かの心の突っ込み。 「聞きたいか?」 龍一の、そのあまりに色っぽすぎる微笑みに、皆人は謹んで辞退した。 「いらない。その件は、絶対に関係はない」 何が悲しくて、身内の艶話を聞く危険に、こんなに脅かされなければいけないのか。
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