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『話をもどそう』
と皆人は、龍一の怒りの矛先が自分に向かないように注意しながら、会話を進める。
通常の龍一なら、こんな姑息な手段が通用するわけはないのだが、今の龍一は、美百合の篭城にほとほと困り果てているようだ。
皆人の言葉に中に、少しでもヒントが見えないかと、すがりつくように皆人の誘導に乗ってくる。
「とにかく話を聞く限り、その隣の男の件に関しても、みゆっちには兄貴の仕業だとはばれていない。それは間違いないよな」
龍一はうなずいた。
「じゃあ、それを理由にするには、動機が弱い気がするな。その妙な薬、『催淫剤』って、催淫剤?」
自分で言った言葉に自分で驚いた。
「みゆっち、催淫剤を飲んじゃったの?」
思わずゴクリと唾を飲む。
「想像はするな」
龍一の声がブリザードのように凍えたので、慌てて気を取り直した。
「そ、それじゃね? そん時の記憶が今んなって恥ずかしくなっちゃったとか……」
想像するなと言ったくせに、龍一自身が思い出すように考え込んでいる。
この微妙に空いた時間に、皆人は思わず、妄想の翼をはためかせてしまった。
健全な男で、美百合のあのダイナマイトバストを知っていたなら、どうしょうもないことだ。
第一、目の前の龍一だって、きっと同じようなことを考えているはず。
いやもっと生々しいことを思い出しているに違いない。
龍一は顔色ひとつ変えないが、弟である皆人には、それがわかった。
やがて、
「――ありえるな」
龍一は認めた。
だから、あんた何やったんだよ!
もう数えるのも諦めた、何回目かの心の突っ込み。
「聞きたいか?」
龍一の、そのあまりに色っぽすぎる微笑みに、皆人は謹んで辞退した。
「いらない。その件は、絶対に関係はない」
何が悲しくて、身内の艶話を聞く危険に、こんなに脅かされなければいけないのか。
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