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それに龍一は、言葉にしなければ絶対に伝わらないことがあることを、きっとわかっていない。
まして生きるか死ぬか、今生の別れになるかもしれない瞬間に、あんなに冷たく突き放されて。
美百合は、龍一に置いて行かれたような、捨てられたような、そんな寂しさに襲われたのだろう。
その上、皆人が殴られるのを防ぐためとはいえ、龍一が美百合に残した言葉は、かなりヒドイものだった。
皆人がそう言うと、
「今から美百合に殴られに来るか?」
龍一は真顔でそう言った。
「お前が殴られれば、美百合の機嫌はなおるのか?」
本気で言っているから、この人は怖い。
「問題はそんなトコじゃないだろ!」
やっと声に出して突っ込めた。
悲しみにくれる女子に殴られるだなんて、平和で可愛い話だけれど。
美百合はビンタではなく、躊躇いなく拳を握ってくるだとか、
あのジャンピング右ストレートは、半端なく強烈だったとか、
そんなことは今はどうでもいい。
「兄貴は女心がわかってないって、そう言ってんだよ」
理沙から言われるばかりで、一度は言ってみたかったセリフだ。
ようやく口にすることが出来て、皆人はちょっとにんまりする。
龍一は、多分、生まれて初めて、皆人に対して言葉を失った。
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