有坂皆人くんの憂鬱なる一日 6

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龍一は、しばらく真剣に考え込んでいた。 でもやがて、 「自分のことは見えなくても、人のことなら良く見えるんだな」 とふんわりと微笑む。 そして、 「ありがとう、皆人」 と言って、テーブルの伝票を手にして、椅子を立った。 「俺は家に帰る。帰って皆人の提案通り、扉の前で裸踊りでもしてみるよ」 「へ!?」 龍一は、それ以上皆人を振り返りもせず、颯爽とホテルから出ていってしまった。 聞こえるのは、爆発するような車の発進音。 「……兄貴、裸踊りってジョークだよな」 かなりの不安は残るが、龍一の冗談はとにかく笑えないので、いちがいに否定することも出来ない。 「正直な自分の気持ちを、みゆっちに見せるって意味だよな……」 皆人の助言が、はたしてちゃんと通じているのか……、 それがわかるまで、結局、数日を要することになる。 それにしても……。 呼び出すだけ呼び出しておいて、後は放置の、この傍若無人ぶり。 相変わらずで、笑いが出るほどだが、 「頼むから、フラれても連絡だけはしてくんなよ」 今は静かな携帯電話に視線を落とす。 「まったく、世話のやける兄貴だぜ」 皆人はうつむいたまま、本人を前にしては、けっして言えないセリフを呟いた。 「あ~あ、乃亜もいねーし、良治のヤツ、今夜付き合ってくれるかなー」 そそくさと帰り支度を始めるその口元が、少しだけ緩んでいた。
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