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「ヒナにはいわねーよ。」
裕太が突然はっきりした口調で言った。
「どうせ、茶化すだけだろ?」
ううん。違う。ただ、早くあきらめたかっただけ。
ううん。違う。つい聞きたくなっただけ。
ううん。違う。裕太と恋バナするどきどきが今のドキドキに似てただけ。
「、、、ごめんね。」
「いや、、言い返すと思った。」
言い返さないよ。
別に裕太の好きな人を知ったからって、どうしたいとかないし。
熱いコンクリートに、バニラソフトがポツリ。
「ア、入道雲だ。」
「、、、え?」
「明日は、雨かな?」
「ううぇ~」
話をそらすしかなかった。
このまま、二人の関係じゃなくなっちゃうような気がしたから。
話を、そらすしかなかった。
「あっつい!帰ろう?」
バニラソフトを無理やり、裕太に渡して、裕太の自転車を横取りした。
「あっちょっと待ってよ!!」
裕太がびっくりして慌ててる。
あっついコンクリートの道を私は走り抜ける。
セミはうるさいし、汗はべたつくし、
だけどしばらく走ってゆっくりブレーキをかけたとき、
裕太がヘロヘロに菜って追いかけてきていたなら、
それでよかった。
この、どうしようもなくざわつく感じがとても好きだった。
裕太の好きな人はもちろん気になるけど、
裕太と二人でいられなくなるくらいなら、知らないほうがずっとましだもん。
「コラー!もっとちゃんとっ走れー!
そんなんじゃベンチだぞー!」
「おりゃあああああああ!!」
裕太がむきになって走ってくる。
いいもん。
ずっとからかってやる。
いいもん。
ずっと怒らせてやる。
夏の暑い町を、冷たい夏風が吹き抜けていく。
裕太には気持ちを伝えないつもりだった。
大人になってもずっと。
ずっと好きなままでも。
私は、今年の夏が去年とは違うということにまだ気がついてなかった。
私にとって、一生忘れられない季節になるなんて思ってなかった。
この夏のスタートはもうとっくにセミが鳴きだしたころに分かっていたのに、
この汗のきらめきが去年と同じなんて思ってないのに。
裕太を好きになって初めての夏が来る。
忘れられない夏が来る。
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