ゴミ屋敷の住人

　公園を挟んだ反対くらいの位置に、近所でも有名なゴミ屋敷がある。
　七十前後くらいの老人の独り暮らしで、自宅から出るゴミを処理しないだけでなく、ゴミ収集の日によそ様が出したゴミを拝借したり、リサイクルステーションから勝手に品物を持って帰ってしまうことも多々だとか。
　景観にも衛生にも悪影響だし、季節になれば悪臭だってまき散らす。たかってくる虫の被害も近所としては問題だろう。
　再三近所の人が苦情を述べに行き、時には市町村の役所レベルで叱ってもらってもいるようだが、聞き入れる様子はまるでないらしい。
　その老人と公園で出くわしたことがある。
　仕事で帰りが遅くなり、近道にと公園を突っ切っていた時、突然目の前に現れたのだ。
　山程の荷物…まず間違いなく拾い集めたのであろうゴミを、大きめの一輪車に乗せて運んでいた。
　暗がりからいきなり出てくるものだからぶつかりそうになったけれど、ゴミに突っ込みたくないという意思で辛うじてかわすと、じろりとこちらを一睨みして去って行った。
　明るい内だと注意されるから、どうやら夜間に活動しているらしい。それも、公園の反対側にまで越境してまでのゴミ収集とは、感心はしないが執念に並々ならぬものを感じさせられてしまう。
　そんなことを考えて帰宅した翌朝、公園でちょっとした騒ぎが起きた。
　この公園は割と広く、東屋などもいくつか設けられているため、夜ともなればホームレスの溜まり場になる。
　昨夜も例に洩れず、何人かのホームレスが東屋にたむろしていたようなのだが、その一人が行方不明になったらしい。
　それだけなら警察が出張ることもないのだが、ホームレス仲間がざっと公園を調べたところ、休憩所に置かれた自動販売機付近から血痕が見つかり、
何かの事件に巻き込まれたのではないかということで通報。警察が来る運びとなったらしい。
　ちなみにその自販機は、昨夜私も公園を横切る際に側を通ったが、付近で人を見たりはしなかった。…いや、一人見かけたな。自動販売機付近じゃないけれど、ゴミ屋敷の老人は確かそっちから一輪車を引いてきていた。
　あとは…そういえば、公園のゴミ回収は朝行われるので、夜の内はそこそこゴミが溜まっている筈のゴミ箱が、昨夜は空だったような気がする。
　空のゴミ箱。いなくなったホームレス。大量の荷物…ゴミを積んだ一輪車。…まさかね。

＊　＊　＊