きみと僕の答えは蝉時雨の中

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皆、会社の規則や摂理に従って生きていく。医者や警察、舞台役者、親の死に目に会えない職業が山とある時代だ。身内の不孝に駆け付けることができない人間は山ほどある。 僕は死体を見たことがない。 人生で何度も葬式になんか出たくはない。 僕が葬式に出たのは母方のじいちゃんがなくなったときだ。 大人がどやどや部屋に入ってきて襖をひっぺがし、やれ障子の張り替えだ、やれ飯の準備だと忙しそうに他人の家を歩き回っていた光景だけが頭に残っている。 僕はその頃、小学生だったから他人が家を歩き回る光景を眺めていただけだ。葬式という一連の行事に参加していながらその順番も仕来たりも僕は知らない。 祖母のときはさっき話した通りだ。行っていないからわからないし、友達に聞いたら葬式は眠いだけだと返された。 「葬式は神聖なものよ」 いまを思えばそう答えたのは彼女だけだった。 そうした観点からすると自殺はやっぱり悪いことなのではないかと思う。 全てを丸投げして逃げるわけだから。
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