きみと僕の答えは蝉時雨の中

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彼女にとって死は常に隣にあるものだ。 彼女の両親はどちらも病を患い、明日にも死ぬ運命を抱えている。 僕がその話を知ったのは、彼女とこうして話をするようになって五年も経ってからだ。 彼女は多くの質問を僕に投げ掛ける癖に、自分の答えはを一切口にしない。 その変わりに僕が答えたことを黙って聞いてくれる。 もちろん、否定はしない。賛成もしない。ただ、ありがとうと最後に付け加える。 僕は彼女がどうしてここまで様々な疑問を口にするのかが疑問で、聞いたことがある。 そのとき彼女は言った。 「人間は自問自答だけでは生きていけない生物だから。私は貴方に問い掛けるのだと思う」 「他の人は駄目なの?」 「他の人は、真面目な答えをくれない」 「本は?」 「私を突き動かす答をくれない」 彼女はばっさりと僕の質問を切り捨て、暫く沈黙した後にあの最初に述べた質問を繰り出したんだ。 ――ねえ、自殺って悪いことかな? 脈絡のない音が僕を締め付ける。
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