夏祭りの思い出

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7月の第3日曜日。 その日は、町外れにある小さな神社の夏祭りの日。 宵祭りにあたる土曜日の昼間から、神社の参道には幟が立ち、各地から集まった露店商が設営に勤しんでいる。 境内からは賑やかなお囃子の音が響き、祭り好きでなくとも、何だかウキウキと心が騒ぐ。 子供達は夜店で何を買おうか友人と熱く語り合い、どうやってお小遣いを多く手に入れるか、頭をひねっている。 元気盛りの青年達は、携帯片手に祭りに連れ立つ仲間を探し、あわよくば、気になるあの娘を呼び出そうと画策している。 一方、少女達も着ていく浴衣の品定めをしながらも、自分を誘ってくれる電話がかかってこないかとソワソワしている。 年頃の子供を持つ母親達は、間違いが何事もなければいいと心配しながら、去年の浴衣が小さくなってやしないかと準備をし、父親達は祭りの後の酒盛りに思いを馳せる。 『夏祭り』──それは、大人も子供も等しく心浮き立たせるナニかを秘めているのだろう。 そうこうしているうちにも、時間はどんどん過ぎていき、町は薄闇に包まれていった。 神社の境内から続く参道に設えられた提灯に灯が入り、いよいよ宵祭りが始まる。 お囃子が一際賑やかに響き渡り、胃袋を刺激する香りが風に乗って町中に漂い出すと、子供達はもう我慢出来ず、両親の腕を引っ張って家から飛び出す。 商店街を抜けて、緩やかな石段を上がるとコンクリート造りの大きな鳥居。 石畳の参道は無数の提灯と露店の灯りで、夜の闇を退けていた。 色とりどりの浴衣が熱帯魚のように行き交い、下駄の音がお囃子に調子を添えている。 客を呼び込む露店商の声。屋台の裏のモーターやバッテリーがたてる「ブーン」という運転音。 いつもの年と同じ、例年通りの『夏祭り』の光景。 時計が8時を回った頃、宵祭りが一段と賑やかさを増す。 綿菓子の屋台でザラメの袋を持ち上げた店主が、ふと顔を上げた。 その耳に、軽やかな下駄の響きを聞き付けたのだ。 『お母さん、綿アメ買ってもいいでしょ?』 幼い少女の高い声が、甘い菓子を買って欲しいと母親にねだっている声。 祭りから祭りを旅する露店商達なら、当たり前のように耳にするであろうその言葉を、店主は悲しみと憐れみのこもった表情で聞いた。
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