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カツカツと大理石に響くヒールの音 それと同時に振り返ってくるスーツを着た男たち。 彼らに私はどう写っているのか。 そんなことは一目瞭然だわ。 仕事しか脳のない、女の姿をした男。 30を過ぎて枯れ果てた女。 女であることを捨てた女、むしろ男。 しまいには、男より男だとまで言われていることくらい、私だって重々承知だ。 こんなはずじゃなかった。と、20代前半の時の私ならそう言っていただろう。 でも、それも簡単に砕けてしまえるほど、私にはもう仕事しか残っていない。 というよりも、仕事をしている自分が一番好き。 「課長!!」 「おう」 「おう!じゃありません。」 「そんな怖い顔すんなよ・・・」 40を越えた大の男が、何を子犬のようなシュンとした顔をしているのか。 可愛くもなんともない。 「・・・またです。」 「はぁ?!」 大宮課長は、ガクッと効果音がしそうなほど首を落としてガシガシと頭をかいた。 整髪料で固めていただろう髪型が少し崩れる。 これから会議だっていうのに、そんなみだれ髪でいいのだろうか。 「で、今度はなんだ?」 「ご自分で確かめてください。・・・流石に、もうかばいきれません。」 あまりにも私の表情がやばかったのか、大宮課長は大きな図体が一気に小さくなってしまいそうなほどのため息をついて重い腰を上げた。 「課長!!」 涙目の秋庭が、大宮課長の姿を見つけてすがりつこうとする。 部内の空気は凍りついているんじゃないかというほどに重たい空気。 「おう、何があったって?」 「それが、発注ミスがあったようで藤和の式典に今日の朝届くはずの荷物が大幅に足らないんです。」 「・・・いくつだ。」 言いにくそうに視線を落としている。 そりゃ、言いにくいよねぇ~・・・分かるわぁ・・・ 「桁違いです。」 「・・・は?」 「ですから、桁違いです。1000個程足りていません。今、営業担当の大杉くんが現場に向かってくれてます。発注先には田崎さんと堀田君が。」 毎朝8時に出社していてよかったと思ったことはない。 定時よりも1時間速くに出社して、かかってきた電話にどやされて、すぐに出勤前の担当メンバーに連絡をしておいた。
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