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動かしたばかりのクーラーからの生ぬるい風が肌に当たる。
小さな会議室で、未だにメソメソしている本田。
うちに来てもうかれこれ1年なろうとしている。
「本田さん、済んだことをあれこれ言いたくないんだけど」
「・・・グズ・・・」
視線をあげようともしない本田は、扉の前で華奢な身体を震わせている。
あぁ、こういう時もう少し可愛いミスなら笑って許してあげられるんだろうなぁー・・・
「あのね、私が頼んだ仕事、そんなに難しいかな?指示も、確認を何度かしたはずだし、メモまで残していたと思うんだけど。」
「・・・ック・・・グスグス・・・」
「・・・前にも同じようなミスしてたと思うんだけどね、その時ももうしませんって言ってたと思うのね?」
「・・・すみません・・・」
この女は、泣いて泣いて最後に謝れば解決すると思っているんだろうか?
一向に上がらない視線に、私の頭はどんどん痛くなる。
「・・・ハァー・・・」
「・・・私・・・」
「・・・なに?」
もう、また「もうしません」とか言うんじゃないだろうな?
ふざけんなよ?
うちに来て、ミスの度に何度それを口にしてるんだ?
「主任のように、仕事だけの女じゃないんです。」
「・・・はい?」
「主任は、私のこと憎いのかもしれないですけど、私はなにも悪いことしていませんから。」
こいつは何を言い出しているんだろうか?
女の目をして、勝ち誇ったような顔で涙で売るんだ目をこちらに向けている。
「あの日、誘ってきたのはあの人です。それに乗ったのは私ですけど、でも今でも言いますよ、あの人。」
「・・・」
「仕事だけの、女の皮をかぶった男を選ばなくてよかったって。だから、私をいびるのはやめてください。」
「な・・・んの、話・・・」
可愛らしい女の仮面をした本田は、ゆっくりと女の顔を沈めると「今回は本当にすみませんでした。もうしません。」と中途半端な一礼をして会議室を出て行った。
残されたのは、何の話をされているのか頭が追いつかずにいる私だけ。
カタっと音を立てて、また女の私が奥に引っ込んだ気がした。
あぁ、人の噂も75日。なんて誰が言い出したんだろうか。
噂なんて、何日経とうが引き合いに出されてしまえば降り出しなのに・・・
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