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「この度は、申し訳ありませんでした。」
「まぁ・・・無事に終わったことですし、高野さんが担当してくださってるので、最後は無事に終わると思っていました。でも、次はありません。この記念式典がどれだけ大切なものか、私は事前にお伝えしていたはずです。」
「はい。心得ております。」
「・・・高野さんには言いにくいですが、これまで他の業者さんは断ってきました。コスト面でも、高野さんのところよりいい条件の会社は多い。こんなことは言いたくありませんでしたが、今後は他社とも比較検討をしながら取引をさせてください。」
「・・・っ。承知しました。これまで以上に誠心誠意、対応させて頂きます。今後共、宜しくお願い致します。」
藤和の担当さんは、苦々しい表情でお辞儀をして撤収に向かった。
その後ろ姿を、何とも言えない気持ちで見ていた。
入社して、初めて営業して、担当も持たせてもらえた会社。
頑なに断られ続けて、何度もトライして、やっと仕事を貰えた会社。
当時の担当さんは退職してしまって、今は新しい担当さんに変わってしまった。
初めは、コスト面で他社よりも高めになってしまうことに懸念を示していた担当さんも、長年付き合っているからと仕事をくれていたのに・・・。
悔しい。
全部、自分が管理して、最初から最後まで自分でしてしまえば良かった。
そんな後悔ばかりがモヤモヤと心に広がる。
浮かんでは消える、泣いている本田と女の顔で見下す本田。
―仕事だけの、女の皮をかぶった男を選ばなくてよかったって。―
悔しさに、握った拳に爪が食い込むのがわかる。
「・・・ックッソ・・・」
小さく、誰にも聞かれないように小さく呟いて、会場をあとにした。
熱の残るアスファルトと日が暮れて少しだけ冷えた空気が、生ぬるい風を作って弛れた体を通り抜ける。
モヤモヤと登るイラつきに拍車をかけるような外気。
汗で滲んだファンデーションが気持ち悪い。
バサバサになった髪の毛もいや。
速く帰って、シャワー浴びて、ビール飲んで、布団に入りたい。
直帰するはずの予定は、藤和の担当の一言に帰って来月の企画書を練り直さなければ・・・
帰路とは逆のホームへ向かう。
目の前のカップルが恋人繋ぎで楽しそうに話している。
彼女のほうは荷物が大きいから、きっとお泊りなんだろうな・・・
いいな。
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