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「・・・つっかれた・・・」
「おっかれさーん」
喫煙室には大宮課長がいた。
この男、さっき新田さんから逃げてなかったか?
「課長、新田さんが探してましたけど?」
「あー・・・そだっけ?」
「・・・逃げましたね?」
「いや・・・だって、すげぇー量の書類持ってくるもんだからさ・・・」
「・・・ハァー・・・さっさと裁かないと、また新田さんに監視されますよ。」
プハーと吐かれた煙が、薄く換気扇に吸い込まれていく。
課長の吸うメンソールのタバコの匂いが鼻を突く。
「お前、いつからだっけか?」
「・・・スー、フー・・・何がです?」
「それ。」
持っていたタバコを指さされて、あぁ。と気にない返事が出る。
吸い始めは、いつだったか。
多分、あいつと別れてから。
いや、その少し前か。
「さぁ、いつでしたっけ?」
「ニューヨークの時はもう吸ってなかったか?」
「まぁ、吸ってましたね。元々、学生の時も少し吸ってましたし。」
「・・・ふぅ~ん」
そう、学生時代。
一度だけあいつと大喧嘩して、一定期間別れていたような曖昧な時期がある。
その時に、友達からもらったタバコに悪いことをしているような感覚と、煙たさ、それから男と同じことをしているという変な感覚を得ていた。
昔から、タバコは男が吸うものと厳格な母親に言われて過ごしてきた。
だから、なんとなく強くなれた気がしたんだ。男と同じことができることに。
それから、仲直りしたあとはタバコを吸う機会も減って、一時期は禁煙のような脱タバコも出来ていた。
どうやら、私は一人になるとタバコを吸ってしまう癖があるらしい。
さみしがり屋かよ。
だっせ。
「まぁ、いいと思うけどね。女のタバコ。」
「それは、前の奥さんがタバコ嫌いで許してくれなかったからですか?」
「まぁ、そんなこともあったか・・・」
ポリポリと何とも言えないとでも言いたそうに顎をかいた課長は、短くなったタバコを親指と人差し指で吸いきって灰皿に垂直に押し付けた。
「女だって男だってな、タバコ使って大きなため息ついてスッキリ一服したい時だってあると思うんだわ・・・まぁ、女は子ども作ったりすること思えば早めにやめること考えた方がいいだろうけどな」
課長はそう言って、気だるそうに「戻るかぁー」と気合をいれて喫煙所を出て行った。
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