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「まったくおかしな話だと思わないか。彼女は俺のことなど全く好いていなかったのだよ」
叔父さんは高校生の僕に自分の恋話をする。先日付き合い始めた女性がこれまたいい身体だったとか、浮気がばれたので三日で別れただとか、そういう話。
当の僕はこれっぽっちも興味がないので、叔父さんの経営する海の家の裏の砂を掘ったりお城を作ったりなど子供っぽいことをして、時々「ふうん」なんてわかったように相槌しながら時間を潰している。
それが僕の高校二年の夏休み生活だ。もちろん僕に彼女なんていう遠き存在は手に入ってないし、営業のバイトをしろと強制されたので数少ない友人たちとも別れを余儀なくされてしまった。夏休み中はずっと叔父さんの家に住み込みだ。
「おい坊主、お前も相手ははやく見つけたほうがいいぞ」
「叔父さんの話聞いてるとさ、一人のほうがいいやって思うよ」
「小生意気なガキんちょめ!さてはモテないな」
「うっせ!これくらいが健全なの!」
叔父さんは金髪をぐいっとかきあげて苦笑しながら表へでた。ビキニのお姉さんたちの黄色い歓声が耳をつんざく。これだからこのおっさんは。
顔は決して悪いほうではないのだろう。ガタイだって僕の廃れたロープみたいなひょろひょろの身体なんかより何倍もがっちりしている。僕が三輪車のタイヤなら叔父さんはトラックのタイヤだ。
おかげでここの海の家は若く露出度の高いお姉さま方で大繁盛する。
それこそありがたいのだけれど、そのせいで僕はよく叔父さんの比較対象にされてしまう。
「可愛い~」と言われるのは恒例行事だ。豊満なお姉さま方にちやほやされるのは悪くもないのだけれど、そこは「かっこいい~」と言ってほしい。
僕だって一応叔父さんのイケメンの血をおすそ分け程度には受け継いでいるはずなのだから。
そんな愚痴を目の前に広がる広大な海に不法投棄しながら僕の夏休みは過ぎていく。
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