第7章 沈みゆく意識の中で

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ああ、それかと言うとゲンゾウは海の方を向いたまま、話し始めた。 「ここに来る人間は魂の状態でやってくるのさ、海を漂いその果てにここに辿り着くのさ。俺はそれを釣り上げ送るべき所に送っているのだ」 「送るべき所って、もしかして……」 僕はそう言いかけて止まる。そう、あまりにも現実味が無かったからだ。ゲンゾウは僕に言葉には何も答えずに続ける。 「だからこの地にいるのは俺やマコトのように”元からいた者たち”ぐらいなのさ。海に漂う魂たちを拾い上げ、あるべき場所へと導く、というべきか。俺たちに与えられた使命がそれであり、今まで数えきれないほどの魂たちを拾い上げてきたのさ」 僕は唖然とする。あまりにも壮大というか、とても僕には理解できない。つまりこの人たちは”人ではない”。恐らく言うなれば神様やそれに近い存在なのだろう。本来なら会うことすら叶わないであろう。 というか待て。何故僕はこんなに冷静に考えを巡らせているんだ?さっきまで何が何だか分からなかったのに今はとても落ち着いている。というかまだ問題の解決方法すら分かってないぞ? するとマコトが空の籠を抱えて戻ってきた。するとマコトが不意にこちらを見るとにこりと笑った。 「えーっと、なんか僕の顔に付いてる?」 「いや、なんかお兄さんの顔がさっきより晴れたような気がして。それまでは何か”ぼんやりしてた”っていうか。まるで”自分が何をしていたか”を忘れたような顔だったから」 ぼんやり?何をしていたかを忘れている?いったい何のことだ? その時不意に頭の中に映像が流れ始めた。記憶だろうか、水の中でもがく子供、水をバシャバシャとかく音、だんだんと高くなる波、そして溺れる子供に向かっていく、”僕”。 ああ、そうか。僕はすっかり忘れていた。僕はこの記憶どころか、自分自身も”ぼやけていたんだ”。だから霧が晴れなかったんだ。 そう、僕は死んでいない。何故なら、 「沈んでいるときに”意識を失ったんだ”……」
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