第7章 沈みゆく意識の中で

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すると海を覆っていた霧がいきなり晴れた。そこには果てしない大海原が広がり、青い空には雲がいくつか浮かんでいた。 「え?あれ?これはいったい……」 するとゲンゾウがにやりと笑い、こちらを見た。そして、 「良かったな小僧。お前さん危うく俺たちの仲間になるところだったな」 「え?それはどういう事なんですか?」 するとマコトが僕の近くに寄ってくると帽子を取った。短いと思っていた髪は実は帽子の中で束ねてあり、その長さは少女のものだ。彼女はこちらを見ると悲しい表情をして、 「実は、ボクたちもお兄さんと同じだったんだ。海で溺れ沈んでいく中で意識を失った。そしていつの間にかここに来ていたんだ。もう何年もここに住み続けているよ……」 「俺らはなあ、お前さんのように記憶を失いここに来た。だが自分が何者でどういう人生を歩んでいたのかすら忘れちまったのさ。そしていつしか思い出すことを忘れ、ここで魂を拾う仕事をやらされるようになったのさ。ここじゃ道具や食料には困らんがその代わりに一生出れない、まさしく牢獄さ」 また僕は唖然とした。すると海のはるか遠くから船がやってくる。その小舟には誰も乗っていない、それなのに船はどんどん近づいてきてやがて桟橋で止まった。 その船を見ているとゲンゾウに背中を押された。驚いて振り向くとそこには笑みを浮かべたゲンゾウとマコトが立っていた。 「ほれ、そいつに乗れば現世に戻れるだろうよ。さっさとここからはおさらばしな」 「あっちに行っても元気でいてね。私たちも忘れないから」 彼らの言葉はとても温かく、優しい。いつしか僕は涙を浮かべていた。僕は涙を拭くと、 「ありがとうございました、あの、おかしいですけど、お二人ともお元気で……!」 そう言って僕は船に乗り込んだ。すると船は勝手に動き出し、だんだん桟橋から離れていく。その時、ふとある事を思い出し僕は叫んだ。 「ゲンゾウさーん!マコトー!僕の、僕の名前はユウヤだー!」 すると2人はそれに反応し、手を振る。僕もそれに答えるように大きく手を振り返した。
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