8 苦肉の謀(はかりごと)

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「ただし……」 高広はここに来て初めて、言いにくそうに言葉を濁す。 「あんたは今、重度の貧血状態だ。この状態で全身麻酔をかければ、手術中に低血圧症に陥り、ショック状態を引き起こしかねねぇ。本当なら輸血してから手術するのがいいんだろうが、あんたの場合、自己血輸血にも問題がある」 龍一の血液は通常の人間には『毒』になる。 それは龍一が同時にウイルスのキャリアーだからでもあって、抗体を持っているクセに同時にキャリアーでもあるという、世にもまれな体質のせいだ。 「悪ぃんだが迷っている暇はねぇ。出来るだけ短時間で手術は終わらせる。俺の我がままに付き合ってくれ」 「……」 龍一を見つめてくる高広は、5日間にも及ぶ看病と薬の精製の疲労で、えらく貧相だ。 無精ひげは伸び放題だし、見事なはずの金髪もはげ落ちた金メッキみたいな色になっている。 ここ一番の勝負の時に、本当に恰好がつかない男だ。 だがそんな肩肘張らない様子が、まるっきりいつもの秋場高広らしくて、龍一は逆に、安心して身を任せることが出来た。
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