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「保、お前呑気なこと言ってんじゃねぇ。ひとりじゃ立つことも出来ねぇだろーが」
ひとりで行くと言った側から、保はバランスを失っている。
ソファーの背もたれに危うく手をついて、かろうじて転ぶのは免れた。
しかし、
「さわるな」
手を貸そうとする高広を頑なに拒む。
そして、
「今なら力づくで言うこときかせられると思ってんのか? これ以上近づいてみろ。すぐ舌噛み切って死んでやる」
まるで『あっかんべー』するように出した保の舌は、高熱のためか真っ赤になっている。
しかし赤い舌を出しながら睨み付ける保の目は本気。
高広が無理に動けば、保はためらうことなく、己の舌を喰いちぎるだろう。
高広は腰をひく。
その様子を悟った保は、
「それでいい高広」
いつもと同じ、糸のように目を細めて笑って、
「そのシケた面どーにかしとけ。男の泣きっツラなんか御免こうむる」
よろける足を引きずり、ひとりで地下への階段を降りて行った。
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