3 予期せぬ来訪者

8/9
96人が本棚に入れています
本棚に追加
/85ページ
しかし龍一は、構うことなくコトリコトリとチェスボードに駒を並べていく。 延々、コトリコトリと。 駒がボードを叩く音が妙に高広の勘に触って、ついにガバリと跳ね起きる。 「俺はやらねーって言ってんだろ」 角立った声が出た。 「言っただろ。俺はお前さんの相手をしてるほどヒマじゃねー。帰らないのは勝手だが、だったらこっちも好きにさせてもらうぜ」 そんな高広の目の前に、龍一は拳をヌッと差し出してくる。 龍一が紡むのはたった一言。 「選べ」 左右の手のひらに握られているのは白黒のポーンだ。 チェスは白の駒の先行が断然有利なルールだから、先行後攻は運で決める。 どうやら龍一は、そこから高広とハンデなしでやり合うつもりらしい。 天才秋場高広を相手に。 正気ならあり得ない選択。 「――どういう、つもりだ」 食いしばった歯の隙間から漏れたのは威嚇のような唸り声。 しかし龍一は顔色ひとつ変えることなく、 「お前が俺に勝てば勝手に死ねばいい。なんなら俺が保とお前を一緒に殺してやろう。その方が楽に死ねる」 高広の細い眉がピクリとあがる。
/85ページ

最初のコメントを投稿しよう!