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しかし龍一は、構うことなくコトリコトリとチェスボードに駒を並べていく。
延々、コトリコトリと。
駒がボードを叩く音が妙に高広の勘に触って、ついにガバリと跳ね起きる。
「俺はやらねーって言ってんだろ」
角立った声が出た。
「言っただろ。俺はお前さんの相手をしてるほどヒマじゃねー。帰らないのは勝手だが、だったらこっちも好きにさせてもらうぜ」
そんな高広の目の前に、龍一は拳をヌッと差し出してくる。
龍一が紡むのはたった一言。
「選べ」
左右の手のひらに握られているのは白黒のポーンだ。
チェスは白の駒の先行が断然有利なルールだから、先行後攻は運で決める。
どうやら龍一は、そこから高広とハンデなしでやり合うつもりらしい。
天才秋場高広を相手に。
正気ならあり得ない選択。
「――どういう、つもりだ」
食いしばった歯の隙間から漏れたのは威嚇のような唸り声。
しかし龍一は顔色ひとつ変えることなく、
「お前が俺に勝てば勝手に死ねばいい。なんなら俺が保とお前を一緒に殺してやろう。その方が楽に死ねる」
高広の細い眉がピクリとあがる。
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