4 勝負の行方

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4 勝負の行方

龍一の精神力は、おそらくもう限界のはずだ。 証拠に鼻血は止まる様子もなく、左手で押さえたハンカチが赤く染まっている。 しかし、 ――コトリ―― 鼻血に構う様子もなく、龍一は駒を動かす。 高広は、龍一が指した100の先1000の先の手を頭の中で読みながら、 「スマートさがお宅の信条だろう。それにしちゃみっともねぇザマだな」 龍一の精神に揺さぶりをかけていく。 チェスは頭脳戦だが神経戦でもある。 先に神経をすり減らした方が、次の一手をミスする確率が高い。 古今東西、現在から過去までの名人たちのチェススコアを記憶しているふたりだから、ここは集中力を乱された方が負ける。 卑怯なのではない、立派な戦略だ。 龍一は実は、クールな外見からは想像も出来ないほど激情家だ。 一度感情が爆発すれば、その矛先は相手を抹殺するまで収まることはない。 恐ろしい性格だが、高広がつけこもうとしているのはソコ。 ここは格闘技のリングの上ではなく、ルールに則ったチェスの世界。 龍一が理性を失い感情に任せて攻撃を仕掛けてくれば、闘牛士さながらに華麗にかわして、相手の打つ手を失くすのも立派な戦略。
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