救いを求めた手

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アルト「クロ…ウ?」 突然聞こえてきたアルトの声に思わず顔を上げる。 すると目の淵に溜まっていた涙が溢れて頬を流れた。 泣いているところを見られたことが恥ずかしくてもう一度俯くと、アルトが優しく抱きしめてくれた。 大丈夫だよ、そう言われてるかのようにも錯覚した。 見知らぬところに連れてこられて、ずっと平気なふりをしていても俺の心は限界寸前だった。 満杯のグラスから零れるみたいに次々と雫が流れ落ちる。 声をあげて泣いたのは随分と久しぶりだった。 大声で泣いて少し冷静になった頃、アルトに手を引かれて廊下から一番近い部屋へ導かれる。 部屋に見覚えがあるところから見ると、どうやらアルトの部屋の前だったようだ。 黒羽「俺、強くなりたい……。」 弱い自分が嫌いだ。 守られて当たり前だと思う自分が嫌いだ。 強くなりたい。 体だけじゃなくて、心も。 外面を作るのは簡単でも、内面はそうはいかない。 知らないうちに悲鳴をあげていて、その悲鳴を無視し続けてしまえばいつか死んでしまう。 だから時には耳を傾けなければならない。 それが、どんな苦痛であろうとも。
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