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お昼休憩になり、会社の近くにあるお弁当屋さんに来た。
「すみません、のり弁ひとつ」
お弁当屋さんは昼時とあって、混雑していた。
店内には今流行りのアイドルの夏ソングが流れている。
携帯を触りながら、お弁当が出来上がるのを待っていた。
ーーーーーーその時、ふと店の外に目を向けると、制服を来た男子学生の集団が通っていた。
彼らは何やら楽しそうに、じゃれ合いながら歩いている。
(高校生かな・・今、夏休みなのに・・・部活かな?)
よくよく見ると、みんながお揃いでテニスラケットを担いでいる。
そういえば近くに高校があったし、テニスコートもあったことを思い出した。
高校生が通り過ぎると、『のり弁の方ー!』と店員の声が聞こえた。
受けとり、店を出た後日傘差し会社へ戻る。蝉の鳴き声がうるさい。
あの高校生達のような夏は、もう人生で過ごす事はないんだろう。
いいな、勉強して部活して、友達と仕様も無いこと笑って、恋をして。
考えれば、学生の時は何も深く考えず恋に落ちていた気がする。
最近、周りの友達から結婚の報告を受ける事が増えてきた。
みんなちゃんと誰かに愛されているのだ。
いつからだろう。人に、男性に本音を見せるのが怖くなったのはーーーーーーーーーーーーーー
その日の仕事を終え、駅に向かって歩いていた。
日も沈み、風は涼しく心地良い。
ふう・・・と息を吐いて、信号が赤になった。
自然と道路の向こう側を見ると、昼に見た男子高校生と同じ制服を着た男の子が立っていた。
ふわっとした黒髪。すらっとした身長。
風で揺れる前髪から覗く瞳が見えた。
彼は、音楽を聞きながら制服のズボンのポケットに手を入れ、足下あたりを見ている。
信号が青になったと同時に歩き出した。
男の子とすれ違ったとき、懐かしい匂いが鼻をかすめた。
(この匂い・・・)
寧々子は信号を渡りきったあと、思わず振り返った。
男の子の背中がどんどん遠くなる。
ーーーーどうしてそうしたかは、未だに分からない。
ただ、懐かしい香りに自然と足が動いた。
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